日本進化論(落合陽一著)の書評。科学者の目線で日本の社会問題、解決方法を論じる世界観が新鮮。

読書

目次

はじめに

こんばんわ。

今回は、科学者の落合陽一さん著書の日本進化論を紹介したいと思います。

私がこの本を購入したのは本の表紙に”人口減少社会は市場稀なるチャンスだ”と記載されていたからです。

私が今まで読んだ社会問題の本の中で、こういう明るいスローガンの本はなかったので関心を持ったんですよ。

私は社会問題には結構関心がある方なので、これまでにも社会問題を扱う本は数冊読んできました。社会問題の本は例外なく現在の日本の悲惨な現実や暗い将来を扱っているので、人によってはあまり読みたくない本だと思います。

私は社会問題からは目を背けてはいけないと考えているので、本屋できになる本があったら積極的に購入するようにしています。

私自身、ここ数年間、派遣社員という社会的には立場の弱い人間なので、社会問題に関心を持たざるを得ないという側面もあります。

私も正社員で働いていた頃は、今のように政治や社会問題には関心を持っていませんでしたからね。

 

この本は、現在および将来の日本の社会問題を6部に分けて論じています。

1 AI、高齢化時代の働き方

2 超高齢化社会をテクノロジーで解決

3 孤立化した子育てからの脱却

4 今の教育は生きるための大事なことを教えているのか?

5 本当に日本の財源は足りないのか?

6 人生100年時代のスポーツの役割

科学者の落合さんらしく、全体的にITテクノロジーで現在の社会問題を解決しようという姿勢が伺えます。このような本は私は読んだことがないので新鮮でした。

落合さんは政治の世界にテクノロジーの導入を加速して未来に投資できる社会を作ることを目標にしているようです。

現在は、シルバー民主主義で老人世代にばかり資本を投下して、将来ある若者に投資をしていないことをこの本の中でも繰り返し嘆いています。

テクノロジーで非効率な日本社会を変えたほうが良いと日頃から考えている人はきっとこの本に共感するでしょう。

 

悲観的な社会問題の本が多い中で、落合氏のこの本は率直に前向きな提言が多くて面白いと思いました。

逆に言えば、社会問題の専門家の人は、落合さんの主張は少し楽天的すぎるのでは?と感じるかもしれません。

 

それでは各章をもう少し詳しく紹介していきます!!

日本進化論の内容

本書を始める前に ー ポリテックとは何か?

ポリテックとはポリティックス(政治)とテクノロジー(技術)を組み合わせた造語なんですね。私はこの本を読むまで知りませんでした。

意味としては、テクノロジーによって何が可能になるのか?という観点を政治の議論で取り入れていくこと。

ポリテックについて著者の落合陽一氏と政治家の小泉進次郎氏が対談が収録されています。

落合氏も小泉氏も、世界各国に比べて、日本が様々な現場でのテクノロジーの活用が遅れていることに危機感を持ているようですね。

序章 テクノロジーと日本の課題を探る

他の先進国に対して、高齢者の年金、医療費、過去の社会保障費に予算の殆どが食われていて未来に対する投資ができていないことが大きな問題であると論じています。

第1章 働くことへの価値観を変えよう

AIとベーシックインカムで将来の働き方は大きく変わるだろうと論じていますね。すでに変わりつつある働き方の実例も多く取り上げていますよ。

まとめ:テクノロジーで働き方が変わってきている具体例

・地方で都市に劣らない魅力的な仕事を創出した島根県海士町

→海産物の鮮度を保ったまま都市部届けるシステム:CASシステムを導入して黒字経営に成功

→若者が仕事を求めてIターンする現象が起きている

第二章 超高齢社会をテクノロジーで解決する

高齢者ドライバー事故問題の対策

ドライバー監視技術:運転者の顔の画像解析で集中力を監視→集中力が一定以下になるとエンジンを強制停止するような装置を実現

介護のパラダイムシフト:お世話介護→自立支援へ

認知症の一部の患者を精神病棟に入れる。欧米では考えられない措置

→精神病棟に入れることで、在宅療養に比べて3倍のコストがかかる

→入院による運動機能の低下でQOLの低下。→コストをかけて患者のQOLを下げるゆがんだ構造。

介護人材不足の深刻さ

→2025年までに55万人増やさなければいけない試算があるが大変にハードルが高い目標

→人海戦術ではなくテクノロジーによる解決促進は現場で必須

まとめ:高齢者と一括りにして問題解決をしないように

運転能力に応じて段階的に対応を変える

→テクノロジーで運転能力を補完できる場合は運転を認めるようにする

→認知症を患っても自動ブレーキ機能があれば安全に運転できる

相互扶助コミュニティ形成の必要性

→国民の認知症リテラシーの向上

→英国では児童が認知症施設を訪れてサービスする活動が義務教育に取り入れられている

第3章 孤立化した子育てから脱却するために

前提:社会で子育てを支援していくことが必要

子育ては親だけが責任を持つものという価値観は通用しなくなっている

児童虐待や見えない貧困が増えているのも親だけに責任を押し付ける風潮が原因

母子家庭の貧困を加速させる

若年層の子育てのし辛さはどこから生まれるのか?

核家族化が大きな原因でご近所付き合いが希薄になった→地域コミュニティの崩壊→近所に子育てを見てくれる人がいなくなってしまった。

まとめ:子育ては親の仕事という価値観は古い

緩やかなつながりを持ちながら全員で相互扶助的にケアし合うことが求められる時代

意欲あるNPO法人と地方自治体の協力で相互扶助的なシステムを作る素地は整いつつある

米国では市民にインセンティブを与えて公共課題解決を推進する面白い取り組みがある→貢献度に応じて市民に地域通貨を発行するところがユニーク。ボランティアにあぐらをかかないところが画期的と言える。

第4章 今の教育は、生きていくために大事なことを教えているか?

現代教育の大前提

多数の生徒に画一的な指導をしてくのは時代錯誤だし効率が悪すぎる→個々人に最適化された学習スタイルが当たり前の時代にするべきである→それが出来る素地はすでにできている→老人寄りの政策ばかりしないで若者たちの教育にもっと投資をすべきである

日本の教育に多様性を

高等教育では先進国ではない。→世界大学ランキングでベスト100に入っているのは東大(42位)、京大(65位)だけ。

義務教育における標準知識詰め込み教育は世界トップクラス

Ph.D的な教育の社会への普及

→過去に事例のない問題を自分で設定し、解決を考えていく

日本の大学のライバルはオンライン教育になる

MOOC:マッシブ・オープン・オンライン・コース

→一流大学の人気講師の授業をオンラインで受けられるサービス

→MITとハーバード大学が設立したedXなど

既存の大学

→オンラインサロン、MOOCの出現で存在意義は薄くなってきているのは間違いない

→大規模な予算で基礎研究を行えるのは大学だけ

まとめ

学校がクローズ化している

→教師自身が勉強を教えることだけに長けていて、社会問題、政治、社会保障、テクノロジーに明るい人がいない。

→教育に多様性を持たせるために、社会全体で学校教育に参加することが必要

→一般社会人にも学校教育に参画してもらうしくみ作り必要

第5章 本当に、日本の財源は足りないのか?

日本の財政の前提

二重苦の状態

→税や社会保障料が上がることに抵抗がある

→国民に十分な社会保障を提供できていない

日本の社会保障費は本当に増大し続けるのか?

悲観論が多いが、今後の社会保障給付費の伸びは2000年代の伸び率よりも穏やかになるという試算もある(対GDP比率)。際限なく社会保障給付費が伸びていくと考えるのは間違いである。ただし、確実な予測は誰にもできないと考える必要がある。

医療費と介護費を抑制するのが鍵

年金は減少、子育ては横ばいの予想なので、増加する予想の医療費、介護費の抑制が課題

→労働力拡充とテクノロジーで抑えられるか?

→VR、AIのテクノロジーを導入した車椅子は介護される人の評判も上々

→人間が行なっていた仕事をAI等が行う場合、税収が減少する問題が生じる

→政府系投資機関と企業がイノベーションの成果を分けあう発想をしないと税収減で国が立ち行かなくなる

高齢化社会で成長を続けるデンマークに学べ

デンマークは人口動態が日本とよく似ている

電子化による政府運営の効率化が進んでいる

まとめ

・日本は弱者を酷使することで回っている国。賃金の安い非効率な仕事はテクノロジーで代替させるべき。そうすれば自然に最低賃金も上がっていくはす

・医療費の問題。自治体が保有している医療データベースを民間に公開してAI技術を使い予測予防に力を入れて医療費削減を官民一帯で目指すべき。

第6章 人生100年時代のスポーツの役割とは?

人生100年時代になぜ運動習慣が必要か?

ストレス解消

コミュニティ形成

予防医学的効果

運動したくてもできない30代、40代

20代、60代以上よりも全く運動習慣がないことが明らかに

→週に3日以上体を動かす習慣の人は2割以下

→理由は家事、仕事に忙しすぎて運動する時間が取れない

忙しくてできないをなくすために

企業はフィットネスジムとの法人契約を積極的に行うべき

→社員がスポーツしやすい環境を整えれば、社員の生産性が上がり、人間関係が得られることは企業にとっても大きなリターンも

運動する場所の確保

→パブリックスペースの整備が急務

→VRなどのテクノロジーを利用すれば狭いビルなどでもスポーツが可能に→先進アミューズメント施設では取り入れられている

まとめ

日本の”幸福と健康”のレベルは低い。(世界166カ国中53位)

→理由は互助的なコミュニティが少なく、孤独を感じている人が多いから→孤独の解消は人間にとって大切なテーマ→スポーツコミュニティへの参加は孤独解消につながる

欧米のようにスポーツできるパブリックスペースを整備していくことが求められている

テクノロジーによるスポーツの多様化:eスポーツ、VRの活用

まとめ

科学者の落合陽一氏が、科学者の視点で、現在の日本の社会問題とその解決策を論じているところがこの本の価値でしょう。

落合氏はITをはじめとしたテクノロジーで日本社会をもう少しだけ効率化すれば、現在の日本の諸問題はほとんど解決できると考えているようです。社会問題の専門家は著書は悲観論が多いですが、落合さんは極めて前向きです。

社会問題の本を数冊読んだ私も感想も、ちょっと楽天的すぎないかな?と思う箇所が結構ありました。

まあ、私自身がどちらかというと悲観的な人間なのでそう感じるだけかもしれません。

この本は落合氏の主張だけでなく、専門家のディスカッションのもとに構成されている本なので、落合氏の主張だけが述べられている本ではありません。

そこもこの本の良いところだと思います。

落合氏の世界観(様々な先進テクノロジーで日本の少子高齢化問題や財源不足を解決する)を知りたい人には良い本と思います。

関連記事 今の世の中に適応できないと感じている人は雨宮処凛さん、phaさんの著書を読むといいですよ。