一億総貧困時代(雨宮処凛・著)を読みました。日本の闇である貧困問題を描き切った渾身のノンフィクションです。

読書

はじめに

この本は、日本の闇(格差社会)を具体例を通して浮き彫りにしている本です。

具体例というのは、児童虐待、風俗産業、ブラック企業、生活保護、原発事故、奨学金返済などに巻き込まれて貧困生活に陥ってしまう事例です。

あまり苦労せずに育った人やホワイト企業で働く貴族労働者で社会問題に無関心な人には結構衝撃というか、目を背けたくなりようなこの国の真実、事例がたくさん書かれています。

ただ、昨年、年金2000万円不足問題が明るみに出て以来、この国の貧困問題は決して多くの人にとって他人事ではなくなりました。

これまで、この国は、この本で紹介しているような不都合な真実を覆い隠してきました。

TVのワイドショーなどは、一見、社会問題を真剣に扱っているように見えますが、ほとんどは御用学者や財界寄りのコメンテーターが綺麗事を言っているに過ぎません。

この国は生活保護などのセーフティーネットが充実しているなどと、寝ぼけたことをいう有名人やコメンテーターが結構いますが、彼らがそんな絵空事を言えるのは、生活保護受給の現場を全く知らないからです。

一部の良識あるジャーナリストは、社会問題の本質まで踏み込んでコメントしていますが、そういう人は稀です。TVなどは視聴率が命なので、視聴者が見たくない聞きたくないような真実をコメントする人は嫌われてしまうから、ある意味仕方ないともいえます。

雨宮さんのこの渾身のドキュメンタリーを読むとつくづく、そう痛感させられます。

年金2000万円不足問題も厳しくいうと、国民の社会問題に対する長年の無関心が大きな原因と思います。

国民が社会問題に関心を持って政治家や官僚を厳しく監視していれば、年金問題もここまでひどくはならなかったと思います。

私を含め、多くの日本人は、今だけ、自分だけ、自分の家族だけが豊かであればそれでいいというメンタリティです。

高度成長期はそういうメンタリティでも国家を運営できたのかもしれませんが、年々没落しているこの国では国民が厳しく国家を監視し続けないと、民主主義や国家の運営はまともにはできないのだなと感じますね。

この本は、社会問題に関心のある人だけではなく、いつも綺麗事ばかり言っているTV番組ばかり見ている人にも勧めたい。

この国の社会問題を真正面から見ることは大人の責任と思います。

私がこの本を購入した理由

私自身、ここ7年間は無職状態や、非正規雇用を繰り返しながら不安定な生活を送っています。

以前、正社員で働いていた頃よりは、遥かに給料は安いですし、勿論、平均所得には遠く及ばない給料しかもらえていません。

だから、将来の年金額も少なくなるのは確実だし、”下流老人”に将来なることはほぼ確定しているのです。

そんな中、大型書店で雨宮さんの”一億総貧困時代”を目にしたときは、手にと選らざるを得ませんでした。

将来、貧困状態になるであろう私が、少しでも役に立つ情報が書いてあるかもしれないと思い購入しました。

税込みで1600円くらいするので、決して安い買い物ではありませんが、購入しないという選択肢はありませんでしたね。

簡単な内容(事例)の紹介

一流企業の正社員→介護離職→路上生活への転落

多くの一流企業の正社員からしたら見たくない真実でしょうね。

ただ、何らかの不幸がきっかけで高給の正社員が路上生活者になることは、この国で現実に起こっているのです。

社会問題に無関心な人は知らないでしょうが、この現実を直視する必要があります。

それくらい、この国のセーフティネットは全く機能していない証明でもあります。

私も7年前に会社をリストラされて、それ以来、無職と派遣就業を繰り返してきている身分で、高齢の親もいます。

この記事はとても他人事とは思えませんでした。

それと同時にやり場のないこの国に対する怒りを覚えたのも事実です。

この国は消費税、健康保険料、介護保険料、厚生年金など多額の税金や社会保障料を毟り取るくせに、我々国民が困ったときは、カネを出すことを異常にしぶる現実がある。

一生懸命働いて、たっぷり税金を支払う。これはいいことだと思うんです。

ただ、それは国が国民に対してセーフティーネットをちゃんと整備することが条件なのはいうまでもないことです。

この記事を読むと真面目に働いて税金や社会保険料を納めるのがバカバカしくなりますよ。

現在、若者を中心に国民年金を滞納する人が多くなって社会問題になっていますが、ある意味当たり前ですよ。

国の態度は、年金保険料は払え、でも支給開始年齢は遅らせると開き直っている始末。

こんな態度で、国民に年金を払えなんてよく言えたものです。私も今20代でフリーターとかだったら国民年金は払わないと思います。国民年金分を貯金して自分で投資信託など購入して資産運用でもしたほうがマシというものです。

外国人差別が醜い日本人

国際結婚が日本では増えています。

ここで問題になるのは醜い外国人差別。東南アジア(中国、フィリピンなど)の女性と結婚する日本人男性は、結婚生活がうまくいかなくなると女性に対してDVをするようになるという。

一方、白人女性と結婚する日本人男性は、結婚生活がうまく行かなくなっても白人女性にDVをする男性は稀だという。

日本人男性が白人女性には差別せず、東南アジアの女性を露骨に差別する、日本人男性にとっては見たくない現実、目を背けたくなるような事実があります。

同じ日本人男性として、考えさせられました。無意識のうちに白人を崇拝して同じ黄色人種を不当に差別する遺伝子が日本人には組み込まれているのかもしれません。

某ブラック企業のとんでも事例

社員に作業着などを自腹購入、仕事で失敗して会社に損失を与えた場合なども、社員に損害賠償を請求し損失額を給料から天引き。

ホワイト企業に勤めている人からすると卒倒するような真実が書かれています。

ブラック企業に対して泣き寝入りせずに、ユニオンと共闘してブラック企業と闘う姿がリアルに描かれています。

ブラック企業で働いている人には大変参考になると思いますよ。

生活保護支援金の減額

これはニュース等でも取り上げられていますが、この本を読むとニュース報道のいい加減さがわかります。どの程度生活水準が下がるのかは一般的な給与所得者は具体的にイメージできないでしょう。

ある生活保護者である老人の取材内容が凄惨すぎて鳥肌が立ちました。人間的な生活をしているなんて口が裂けても言えない内容です。私も派遣社員で薄給の身分。年金支給額も少ないでしょうから生活保護以下の生活を将来強いられる可能性も十分にあるわけです。

内容はとても人ごととは思えませんでした。

就職氷河期世代で非正規雇用で現在働いている人ならば、将来、誰にでも起こりうる生活だと感じました。

目を背けたくなるような真実ですが、刮目しなければいけないと思います。

目を背けても何もいいことはないのですから。

障害者の差別

障害者は、健常者に勇気や感動を与える道具ではない。障害者は天使でもゴミでもない。

雨宮さんは障害者の多くがこのように思っていると主張しています。

この言葉はメディアの人たちにとっては耳の痛い言葉のはずです。

パラリンピックなどを見ているとメディアや大企業は、障害者を健常者に勇気や感動を与える道具として利用していることがよくわかります。障害者を扱った小説や映画も多いけど、これらも読者や視聴者に勇気や感動を与えるために障害者を利用していると言えるでしょう。

障害者の人は、障害者を扱った映画などを見ると本音では相当不愉快になるんでしょうね。

障害者の有名人といえば乙武さんです。

彼の姿を見ていると底抜けに明るいし、言動も前向きです。

彼の著書である”五体不満足”でも障害は不自由だが不幸ではないと言い切っておられます。

メディアや政治は彼を勇気や感動を与える道具として利用しているのでしょうが、乙武さん本人はご自身が感動を与える存在であるとか、そういう意識はないのでしょう。

ただ、メディアで主張したいことがあるから、メディアで仕事するのが楽しいからメディアに積極的に出演しているのだと思います。

重度障害者介護の現実

重度障害者(ALS:全身が動かなくなる神経の疾患)の介護の取材が衝撃ですね。

TVなどに出てくる有名人や識者は自分で介護もしたことも取材したこともないくせに、介護は家族がやるべきだ、などとしたり顔で主張しますよね。

この雨宮さんの取材を読んでいると、そういう意見がいかに危険で馬鹿げているのかが分かります。

重度障害者などの介護は家族などの”密室介護”になると殺し合いになりかねないというのは介護に携わった方の間では常識のようです。

やはりTVや新聞などのメディアはダメですね。介護一つとっても本質に迫った記事を書いたりや取材ができていないのが雨宮さんの渾身の取材を読むとよく分かります。

まとめ

TVや新聞などで綺麗事ばかりにさらされていると、世の中の真実が見えなくなる。

朝のワイドショーやニュースのコメンテーターは綺麗事ばかりを言っているのがこの本を読むとはっきりする。

雨宮さんのこのノンフィクションを読むとそのことを痛感します。

目を背けたくなるような真実が多いドキュメンタリーですけど、時々勇気づけられる事実、この国も捨てたものではないなと誇れる部分も随所に見られます。

 

雨宮さんは決してこの国の絶望だけをこの本で伝えたいわけではないようです。

絶望の中にも垣間見える一筋の光にも希望を見出していると思います。

絶望的な事例をたくさん紹介している一方、セーフティーネットを作るために奮闘している心ある人たちの紹介もたくさんありますよ。

この本をお勧めしたいのは、以下のような人ですね。

1 この国の不都合な目を背けたいような真実を知りたい人、知る勇気を持っている人

2 社会問題に関心がある人

3 強者の論理で煽りまくる世の中に辟易としている人

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