大前研一氏の新刊”国家の衰退からいかに脱するか”を読みました。日本の問題点と世界の自国第一主義にどう立ち向かうかを問う書。内容は賛否両論ありますね。

読書

”国家の衰退からいかに脱するか”は日本と世界の現在の問題を啓蒙する書です。

この本は大前研一氏の新刊になります。

内容は日本や世界の現状に対する問題点の整理、その対応への批判や現状打破のための提言です。

大前研一氏はかつて、東京都知事選に立候補したほど、日本をより良い国にしようという意欲がある人です。

若い時は生粋のエンジニアで米国の名門MITで工学博士号を取得した秀才であり、社会人になってからはマッキンゼーで伝説のコンサルタントと言われたほどの人物。つまり、超エリート層の人です。

この本で語っている大前氏の主張や提言は私から見るとやや過激なものが多く内容は賛否両論あるでしょう。

私も読んでいて同意できるところもあれば、ちょっと極端でやばい思想だなと疑問に感じるところも多々ありました。

政治的な内容の濃い本なので人によっては不快になるかもしれません。

ただ、現状の世界の政治や経済の問題、日本の問題点はよく整理されていてさすがだなと思わされます。批判の内容も鋭く大前氏ならではの精密な考察が随所にあるので読む価値は十分にあります。内容の賛否については読み手によっても変わると思いますから、読んでいるときに各自でツッコミを入れながら読むと面白いと思いますよ。

 

大前氏はこの本の中で”低欲望社会”というキーワードを繰り返し使っています。

消費をほとんどしないで最低限の生活費で満足している日本の若者を表している言葉ですね。

ミニマリストが一部の若者に絶大な支持を受けているのも、低欲望社会の影響でしょう。

大前氏は日本の低欲望社会を憂いているようですが、私は低欲望社会になるのは必然だし避けようがないと思います。

大多数の人間は大前氏のように体力や知力に恵まれているわけではないから、いくら頑張っても人並み以上に稼ぎ続けるのは至難の技です。多くの凡人はそれに気がついているから、少ない稼ぎで生活を回すためにミニマリスト的な生活をせざるを得ないのが本音でしょう。

大前氏の提言はなるほどと思わせるものが確かに多いのですが大多数の凡人が実行するのは無理なものが多い。

提言内容は体力、知力に恵まれた一部の特権階級が対象と考えていいでしょう。

”国家の衰退からいかに脱するか”の内容のごく一部を紹介します。

第1章:劣化する政治”安倍政権愚策の研究”

税制改革(ふるさと納税など)、未来投資会議、最低賃金引き上げ、マイナンバー制度、人生100年時代構想など、安倍政権の取り組みを痛烈に批判しています。批判だけではなく、全てに対して大前氏の提案もあります。その提案内容はもちろん賛否両論ある内容になっています。

安倍政権の取り組みに対する批判はなるほどと思うものが多いのですが、それに対する提案内容はどちらかと言うと強者の論理の内容で庶民には受け入れられにくい提案も多いと感じました。

大前氏自体が超エリート階級の人なので、庶民に対する配慮よりも国家の繁栄を優先するのは仕方ないのかもしれません。

ただ、いくら国家が繁栄しても多くの庶民が犠牲になってしまったら何の意味もありません。

大前氏が都知事選で惨敗したのも、主張することはわかるが強者の論理が強すぎると都民が危機感を感じたからかもしれません。

第二章 空転する外交”自国第一主義にどう対するか”

米中貿易戦争、ヨーロッパ、中東の不安定化や日本の韓国との関係悪化などを取り上げています。

私的には韓国との関係悪化の大前氏の考察が面白かったです。

米中貿易戦争

日本も対岸の火事ではなく、中国経済頼みの日本も深刻な打撃を受けると主張しています。

ヨーロッパの不安定化

ブレグジットで揺れる英国、EUから財政再建を求められているイタリア、マクロン大統領に対する抗議が活発化するフランス、EUに幻滅している東欧の現状を詳しく述べています。

中東の不安定化

米国のイラン核合意からの離脱、記者殺害を指示したサウジアラビアの皇太子に対するトランプ政権の対応などを取り上げてます

韓国との関係悪化

かなりのページを割いて大前氏の考えを述べています。文大統領の間は放置しておけば良いとの大前氏の考え。

確かに日本政府と文大統領の考えが違いすぎるので話し合いにはならないと私も感じます。国交断絶したら日本の観光業は大打撃を被るし、放置する以外できることは何もないと思います。

ただ、大前氏が危惧している朝鮮半島統一は怖いですね。間違いなく仮想敵国は日本になるので。今のように北朝鮮と韓国が仲が悪い方が日本にとっては都合がいいと思います。

第3章 次なる戦略”日本再起動のための処方箋”

大前氏の過激な処方箋が色々と記されています。論理的にはなるほどと思うものが沢山ありますが、政治的に実行するのは相当難しいだろうなと感じる処方箋が多いです。

文科省を解体しアンチ文科省を設立

アンチ文科省が音頭をとって、既存の学校に変わるグローバル人材教育機関を作るべきだと提言しています。

起業家の堀江貴文氏などもグローバル人材養成校ではありませんが大学をつくっていますし、最近はインフルエンサーが開催するオンラインサロンも人気です。堀江氏も大前氏と同じく、既存の学校の教育内容は今の時代に全く対応していないと前から警鐘を鳴らしていました。オンラインサロンも教育内容によっては既存の高校大学に変わるものになっていますし、これからも既存の学校に変わる教育機関は色々と出てくるでしょう。

大学入試改革

ペーパーテストから面接方式への転換を大前氏は提案。また、世界標準の大学のダイバーシティ化も提言している。色々な人種を大学に入学させるように操作するのは当たり前らしいですね。

入試の面接方式への転換は面白いですが、莫大なコストがかかるし、面接官の個人差もあって公平性という意味であまり現実的ではないと思います。志願者の少ない大学ならば試してみる価値はあると思いますけどね。

ダイバーシティ化については日本の大学はほとんどが日本人なので現在はダイバーシティとは程遠いですね。

それは日本語で入学試験を行なっているから。ダイバーシティ化するなら全科目を英語で試験をすることが必須になるだろうと思います。

英語が苦手な学生にはかなり不利な選考方法になるので、実際に導入を検討するとなるといろんな波紋を呼びそうですね。

財政赤字削減

年金財政問題は日本だけではなく、世界各国で問題になっている模様。フランス、イタリア、ロシアも年金財政が深刻化しているそうです。

ただ、年金制度破綻が最も深刻なのは日本。大前氏は今の年金制度を廃止して個人資産が多い人には年金支払いを後ろ倒し(もしくは支払わない)にする制度を提案している。庶民には良い提案ですが、富裕層が損をする仕組みなので実現は既得権益層の反発もあり政治的に実現は相当難しいでしょう。

医療費削減

→製薬業界(医療用医薬品削減)や薬局経営のリストラ(薬剤師の削減など)、健康保険改革(軽度の治療は100%自己負担など)を提案しています。ただ、製薬業界や医療業界の”利権”に関わる部分なので既得権益層の猛反発を食らうでしょうね。政治的には相当実現は大変だと思います。

確かに医師はともかく薬剤師は多すぎますね。薬剤師ってほとんどは定型業務なので機械で置き換える業務はたくさんあるはず。

薬剤師の雇用を守るために効率の悪い薬局経営をしているところが多いのだと思います。

あと、クリニックや病院間で検査結果の共有は絶対にすべきだと思う。

今は別のクリニックに行けば、同じような検査をやり直す馬鹿なことをやっています。税金の無駄使いそのものです。大前氏が言うまでもなく医療機関での検査の無駄を感じている人は多いでしょう。

インフラ老朽化対策

→都内の容積率を緩和、マンション管理組合の株式会社化で都内の老朽マンションを超高層マンションなどに建て替えることを大前氏は提案しています。

私はこの提案はちょっと危険な気がする。首都直下大地震の危険がある東京で超高層ビルを増やすのは自殺行為。

超高層ビルが災害に弱いことは最近の台風被害や東日本大震災でも証明されています。通勤時間短縮とインフラ刷新を一度にできる面白い提案ですが災害都市の東京ではかなりリスクが高いと言わざるを得ないですね。

令和維新

→コモンデータベース(国民データベース)と道州制をまずは導入すべきと大前氏は提案。

コモンデータベースは私も一国民としてぜひ整備して欲しいと思う。今の日本はとにかく行政申請が効率が悪すぎる。

パスポート申請は戸籍抄本を準備しなければならないし、その戸籍抄本も住んでいる自治体では申請できずに本籍地と郵送でやりとりしなければならない。おまけにパスポート申請も役所ではなくパスポート申請専用機関まで出向かなければならない。

たかがパスポート取得するだけでこんなに面倒なことをしないといけないのはこの国の後進国ぶりを表していると感じます。例えば、マイナンバーカードの情報だけでスマホで申請して自宅にパスポートが郵送されるような仕組みが欲しい。技術的にはできるはず。お役人は行政を効率化すると自分たちの仕事がなくなるから効率の悪さを我々納税者に押し付けているだけと感じます。

憲法改正

大前氏は野放図に国債を乱発しない財政規律条項を加えるべきと主張している。これは私も大賛成。

ニュージランドなどの憲法は財政規律条項を入れているし国際的には珍しくない措置。ただ、今の自民党には無理でしょうね。

国債乱発をやめる=老人世帯への支援切り捨てなので、自民党を支持している老人層が自民党かを支持しなくなる。それでは政権交代になってしまう。

安倍政権もそれがわかっているから若者世代にツケを回す国債乱発を実施しているのだろうと思います。

ただ、国債乱発はどこかのタイミングでやめないと絶対にダメだろうと思う。

カネは天から降ってこないので国債乱発を繰り返したらこの国は破産するしかないです。

まとめ

大前研一氏の新刊”国家の衰退からいかに脱するか”を紹介しました。

日本と世界の現状の問題点とそれに対する大前氏の視点での批判や処方箋が述べられています。

社会問題、経済、世界情勢に関心がある人は興味深く読める内容になっています。

内容については、もちろん大前氏の独自の視点ですから賛否両論がある内容と思います。私の感想としても、なるほどと共感できるものや、ちょっと現実味がない提案だなと、疑問に感じる内容もありました。

とはいえ、現在の日本、世界の課題が網羅されているので読む価値は十分にあると思いました。

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