生きづらさについて考える(内田樹・著)|日本の政治、経済、社会問題を皮肉交じりに痛烈に批判する本です。

読書

生きづらさを考える(内田樹・著)は日本の社会問題の現状分析、批判する著書

この本は内田樹氏がいろんな媒体(サンデー毎日での連載が多い)で書いた記事を編集したものです。内田氏は元々は大学教授を長くやってこられたれっきとした学者はので中身は少し難しめです。言葉も古典的な言葉が随所に使われていて電子辞書で絶えず調べながら読まなければならない箇所も沢山ありました。

基本的に時事問題、社会問題を論じているので内容は暗いですね(笑)。これは内田樹氏も本文で認めています。

社会問題と絡めて、現在の安倍政権への手厳しい批判も随所に散りばめられています。

右寄りの人が読むと腹の立つ内容が多いと思います。私は左派ではありませんが、安倍政権というか自民党政権の政策はあまり好きでは無いので興味深く読むことができました。

ただ、内田氏は団塊の世代の人ですから、高度成長期を社会人時代を生きた、経済的には極めて美味しい世代の人間です。私のような経済的に厳しい環境に置かれた現役世代(就職氷河期世代)からすると、牧歌的というか呑気な内容だなと少し違和感を覚える箇所も所々にありました。

この本を勧められる対象は、日本の社会問題に関心を持っている人ですね(少子高齢化、年金、医療、都市地方間の格差など)。内容はもちろん、賛否両論あると思いますけど、日本の社会問題に関する内田氏の考察は鋭く深く興味深い考えが多かったです。これだけでもこの本を購入して時間をかけて読む価値があると思いました。

日本の社会、政治問題に関心があまり無い人にとっても有益な本だと思います。そのような人たちにとっては内容は腹立たしいかもしれませんが、様々な考えに触れるというのは大事だと思うんです。自分の考えに近い人達だけの考えにばかり触れていると、どんどん思想が偏っていくので危険だと思います。

私が”生きづらさを考える”を購入した理由

私は日頃から社会問題に関心がある方なので、この手の本はよく読む方だと思います。新刊の売り場をチェックしていたらこの本が目に留まったので購入しました。値段は安くないですけど、結構分厚い本なのでかなりの時間を潰せます。私的には購入して正解でした。

私が特に印象に残った内容は以下の通りです。ネタバラシになるので細かいことは書きません(笑)。気になった方は購入して読んでみてください。

●隣国(韓国)の教育制度について。日本のメディアが全く事実を報道しないことを憂いている。

●水は誰のものか?。マスメディアが伝えない事実、皮肉交じりの批判が多い。

●大阪万博、若者の地方移住促進などの問題

●東京五輪の商業主義のバカバカしさ。五輪招致疑惑にも踏み込んでいる

●日本全体(行政、大学など)の株式会社化のバカバカしさを痛烈に批判。株式会社化した大学が劣化していくのは当たり前であると。

●原発問題から見える日本人の幼稚な感性への考察

●天皇制を実態のない記号にしようと目論む安倍政権の批判

●平成30年の総括および今後30年の日本の予想

→バブル崩壊後の醜い対米従属や失われた20年の考察が内田氏独特のもので興味深い。ここの考察を読むだけでもこの本を読む価値があると思いました。

●日本人の自由論。ヨーロッパと日本の歴史と現代の風景を掛け合わせて日本人の独特の自由との付き合い方を論じています。

●少子高齢化についての考察。少子高齢化の進む世界各地と比較して歴史学的に論じています。

●第二次大戦で敗戦についての考察と現在の少子高齢化を結びつける考察。

”生きづらさを考える”について本文からの一部引用と感想

本書のネタバラシ(引用)を一部だけしますね(笑)。内容は盛りだくさんの本なので極一部を紹介してもバチは当たらないと思いま(笑)。

 

戦争の時はそれなりに楽しいことがあった、という小津安二郎の映画の中からのセリフ。これは戦後生まれの私には理解できない

→内田氏は戦後世代には理解できないセリフと主張しているが、私は理解できる。どんな悲惨な経験の中でも、楽しい一瞬はあるだろう。ブラック企業で働いている人だって、辛いことが多い中にも、誰かに助けられて感動したり、それなりの達成感を感じることだってあるだろう。

 

韓国においては教育の”脱管理下”が進み、様々な自発的な教育実践が行われているという現実が、日本のメディアでは全く報じられない。

→やはり真実は、自分で現地を訪れて、自分の目で確認するしかないと思いました。日本でも韓国の報道姿勢は偏っているし、メディアの報道で真偽を判断するのは極めて危険だと思う。

 

”誰かに尽くす”とか”誰かを守る”というマインドセットにならないとこういう仕事(家事)はうまく集中できないのかもしれない。

→私は独身で家事は基本的に真剣にはやる気にならない。この内田氏の考えには非常に共感した。内田氏自身、自分の娘がいるときは家事を苦もなく懸命にこなしていたにも関わらず、娘が成人して家を出た途端に家事に興味がなくなったという。家族への愛が家事のモチベーションになっているのは間違いないだろう。

 

本来言論というものは”身内限定”に書かれるべきでない。”情理を尽くして説く”という構えは分野に関わらずものを書く人間が手放してはならない基本ルールである。

→杉田水脈氏のLGTB発言をもとにした記事で内田氏が主張しているが、ツイッターやブログなども同じなのは言うまでもない。ツイッターでも特定集団に対する差別的な言動を行えば”炎上”するのは当たり前。特定集団を差別する言動をして批判が怖いなどという人間は見当違いというか、情報発信する資格のない人間だと感じる。

 

人間が自説を問う時は”自分が言わなければ誰もいう人がいないこと”を選択的に言うべきだ

→ツイッターやブログでも当てはまりますね。他人と同じようなことを記事に書いても注目されるはずがありません。情報が溢れかえっているSNSでは雑多な”ノイズ”として扱われるだけでしょうね。

 

人々が期待するほどカジノは儲からないのではないか?と言うカジノ専門家からの意見がある

→カジノで海外のビジネスマンに遊んでもらい外貨を日本に落としてもらう、というビジネスモデルは比較的良いのではないかと思っていたので、カジノは儲からないかもしれないと言う専門家の意見は盲点でしたね。儲からないのであればカジノで外貨を稼ぐと言うビジネスは全くの机上の空論になってしまう。カジノを建設するゼネコンだけが儲かって、カジノ運営で損失が出た時は国民が損失を税金で穴埋めさせられる、日本お得意のモデルに落ちぶれてしまいますからね。

 

この文章を書いた人間の生き生きした身体実感の裏付けがないからである。書いている人間がワクワクしていないのに、読み手がワクワクするわけがない。

→大阪万博の公式サイトの説明文を見ての内田氏の辛辣な感想である。これはブロガーには耳の痛い言葉ですね。我々ブロガーも自分が楽しいことを書かないと、読者に記事を楽しんでもらえることは難しいですね。アクセスを増やす小手先のテクニックだけでは恐らく上手くいかないでしょう。ブログを書く場合も、ブログ書いている人が楽しいと感じることを記事にしていかないと、読んでくれる読者は増えませんね。

 

科学研究の壊滅的な劣化が進行している。人口当たりの論文数は世界37位で先進国中では最下位を記録。

→科学技術白書がエビデンスをもとに認めている真実です。私も技術者の端くれなので肌感覚でわかります。まず、日本の大学は教員、学生の待遇が悪すぎます。もっときつく言うと、理系学部の教員、学生は教授の奴隷になっています。

 

今の40代、50代を見ると、まともな批判精神がある人間は出世できていない。日本を代表する企業が次々と不祥事を起こしたが、どれも目先の利益を追い求め、ミスを隠蔽し、問題解決を先送りしていたからである。上司や前任者の指示に無批判に従い、事を荒立てないことだけに汲々とするイエスマンばかりが重用された結果である。

→会社勤めしている人なら、ウンウンと頷くしかないですよね。これほど会社の闇を的確に言語化しているのは流石と言わざるを得ない。

 

就職活動において、学生たちが最も関心を持つべきなのは、この社会がどのように変わっていくのかについての情報である。

→これは確かにそう。TVとかはガラクタ情報ばかりなので、本読んだり、Youtube見たりして地上波が報道しない情報を自ら集めて本当に価値ある情報を選んでいくしかないですね。

 

皆さん(学生)にオススメできる生き方は”学びたい事を学ぶ。身に付けたい技術を身につける”です。”やりたくはないけど、やると食えそうだから”などと小賢しい算盤を弾かない。

→大して文章を書くことが好きでもないのに食えるかもしれないと感じてブログを始めたり、金儲けできそうだから、大して興味のない資産運用を始めた私には大変耳の痛い文章です。これからは、少子高齢化とAIでどのような産業がどのタイミングで滅び、どのような仕事が創生されるのか誰も読むことができない時代。”食えるかもしれない”と感じた技術が全く役に立たなくなる可能性もあるということです。そんな世の中では、やりたいことを最優先した方がいいということでしょう。もちろんやりたいことは将来、AIに取って代わられるかもしれない。でもやりたいことだったら、やっていて楽しかったわけで、諦めもつくでしょう。やりたくないことに時間を労力を費やして、10年後にはAIに取って代わられて不要になったら目も当てられません。まさしく人生を無駄な時間に盗まれたということになりますからね。

 

原発のリスクを語ることは、学者たちにとって自身の生計の道を閉ざすことになる。原発がなくなると失業する人間に、原発の安全性について議論させること自体が間違っている。

→どの企業にも、安全管理の部署がありますが、安全リスクを低めることは多大な設備投資を意味するし、企業の生産性を低めることにつながる。営利企業が社内で安全について議論しても、あまり意味はないでしょうね。

何か安全について部署を作って活動しないと、カッコがつかないし、何か災害が起きた時に何もやっていなかったら責められるから”形だけ”安全活動をやっているのでしょう。

企業と全く営利関係のない外部機関が本気で安全活動を指揮すれば少しはましな活動になると思いますが、それも莫大な金と労力がかかり、企業の生産性を下げるので、”まともな企業”は外部機関に委託しようとは思わないでしょう。

 

日本では”様々な危機的事態を想定して、それぞれについて最適な対処法を考える”という構えそのものが”悲観的なふるまい”と見なされるのである。

→自然災害では、最悪な事態を想定して、最適な対処法を考えるのが当たり前なのですが、東日本大震災では、その行動が全くできずに、”都合の良い楽観主義”で多数の人が犠牲になりました。石巻の大川小学校では、児童は危険を感じて山の方に逃げたのですが、教師はそれをやめさせて、学校に残ることを強制した。これも教師の”都合の良い楽観主義”で多数の生徒を犠牲にした事例です。

 

リタイアすることの最大のリスクは”現場を失う”ことです。メディア経由の情報しか触れることができず、加工される前の”生もの”の現実との接点を失うことです。それについて退職者は十分に危機感を持った方がいい。

→現場に出る仕事であれば日本社会の問題点がわかるので、どんな現場仕事にも価値があると主張されています。その意味では最近流行っているブロガーとかアフィリエイターは家に引きこもって作業するのが主になるので日本社会の”生情報”と触れ合うことができなくなり、浦島太郎化する恐れがありますね。ブロガーも家に引きこもって発信するだけでなく、外と触れ合うように積極的にした方がいいのでしょうね。おそらく、ブロガーの人たちもそのことは分かっているはずです。だからこそ、多くのブロガーがオンラインサロンや全国で公演を開催しているのでしょう。もちろんそうしたことは”お金を稼ぐ”のが第一目的とは思いますが、おそらくそれだけではないと思います。ブロガーの人たちも無意識で”引きこもって仕事しているだけではやばい”と本能的に感じているのではないでしょうか?

 

政府の人生100年時代構想会議は、リタイアした人たちを、今後もどうやって労働力として、あるいは消費者として”再利用”するかという意見が見え透いていますから。

→これは、団塊の世代の人たちの本音かもしれませんが、ちょっと一方的すぎる意見と思います。団塊の世代は高度成長期という一番美味しい時代を生きて、定年後は若者や現役世代を搾取してたっぷりの年金と医療を享受している世代。若者や現役世代は団塊の世代の犠牲者なのだから、自分たちだけ老後は安定して過ごそうというのは虫が良すぎます。醜い少子高齢化が進むこの国では、死ぬまで働けというのはある意味しょうがないと思う。

 

はっきりと分かっているのは、二台超大国である米中も、EUもロシアも(もちろん日本も)どこの国も地域も、国際社会に対して強い指南力を発揮しうるグローバル・ビジョンを提示する能力がないということである。”海図なき航海”というと指摘だけれど、要するに”どうなるかお先真っ暗”ということである。

→私は世界株式に投資しているので、非常に怖い内容ですね。お先真っ暗な世界に投資するのはある意味自殺行為なのかもしれない。とはいえ、日本の長期的に衰退するのは間違い無いと思うので日本円だけで資産を持つことも怖い。今後は金融資産を持つことがリスクになる可能性が高いと感じます。やはり、資産を失っても大丈夫なくらい、稼げる能力を今のうちに磨いておくのが大事では無いでしょうか?それも簡単では無いのですけど、世界株価に一喜一憂する暇があるのなら稼ぐ能力を身につける方に”投資”した方がいいですよね。

まとめ

生きづらさを考える(内田樹・著)は日本の経済、政治、社会問題を総合的に論じている本です。使われている言葉や内容は少し難しめなので、電子辞書を側において読むことはマストだと思います。社会問題に関心を持つビジネスマンだけでなく、これから社会に出る学生にも勧めたいですね。

時事問題を扱っているので、内容は正直くらいですけど(笑)、日本の現状はそれだけ深刻なので、現実から目を背けずに不都合な真実に向き合うにはとても良い本です。

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